《炸子鷄》という廣東料理がある。鷄をまるごと揚げたものなんだが、調理法がちょっと違う。内臓を取り除き、下味をつけた鷄を左手に吊るし持ち、右手におたまを持つ。煮えたぎる油を何度も鷄にかけてやり、表面がこんがりと飴色になったら出来上がりだ。
出来上がった鷄は表面が輝く飴色をしていて、薄いガラスのようにパリパリとしている。噛むとパリパリとした歯ざわりと、肉汁が”ジュワッ”と口にひろがりその旨さに驚く。一般的には、レモン汁か塩をつけて食べるようだ。
香港の福臨門魚翅海鮮酒家という廣東料理店の看板料理のひとつがこの炸子鷄で、《當紅脆皮鷄》という名前でメニューに載っている。何度かこの店で《當紅脆皮鷄》を食べたがなるほど看板料理に相応しい旨さだった。ただ、一度だけ美味しくないときがあった。そういうこともあるんだろう。
ところで、横濱中華街のある店でこの《炸子鷄》を食べる機会を得た。残念ながらまるで美味しくなかった。表面がパリパリとは程遠いものだったし、使われている鷄そのものがよくないのだろう、肉汁のないバサバサのものだった。鷄には申し訳なかったが、食べ残してしまった。
この料理は、鷄の善し悪しがストレートにでる料理なようだ。つまり、よい鷄さえ使えば本場に負けない美味しい《炸子鷄》ができるということだ。日本にも良い地鷄があるのだから、相応しい鷄を探し出して、食べさせて欲しいところ。
なお、横濱中華街『聘珍樓』では、地鷄を使った《炸子鷄》があるらしいので、いつかトライしてみるつもりである。
《油淋鷄》私はこの料理を横濱中華街で知った。普通に揚げた鷄にタレをかけたものである。鷄のカツレツといったらイメージが悪いかもしれないが、味の方はなかなか美味しい。コースに組み込んでも悪くないし、ご飯といっしょに食べるのもいいものだ。
《油淋鷄》は、かなりお勧めの料理。料理店のメニューに《油淋鷄》の文字があったら試してみて欲しい。
なお、私は横濱中華街では『東林』のものがお気に入りである。
＝補足＝（1997.11.23追加）
横濱中華街ならびに横濱中華街以外の他の店でもこの《油淋鷄》を試してみたが、どこも『東林』の足元にも及ばない。『東林』の《油淋鷄》は特別に美味しいようだ。『東林』でこそ試して欲しい一品。
『長江大飯店』の宴会料理に《台灣産地鷄のパイ包み燒き》という料理がある。富貴鷄とか乞食鷄と呼ばれる伝統的上海料理をアレンジしたものだ。丸ごとの鷄から骨を丁寧に取り除き、なかにもち米を入れる。これを蓮の葉で包み、さらにアルミホイルで包む。さらにその上からパイ生地で包んでオーブンで蒸し燒きにする。
ちなみに、このパイ生地の代わりに泥で包むとかなり本格的な《富貴鷄》となる。パイ生地だろうが泥だろうがそんなに変わりはなさそうなので《富貴鷄》と呼べばよさそうなものだが、『長江大飯店』の料理長は「泥で固めたものではないので、この料理を《富貴鷄》とは呼ばせない」んだそうだ。頑固である。
客席に運ばれるときは、パイに包まれた状態で登場する。このパイ生地をかち割ると、とてつもなく良い香りがあたりを覆う。プレゼンテーションに優れ、味もよく、とても満足できる。
《台灣産地鷄のパイ包み燒き》は、一つで８人位のグループを賄う分量がある。小人数では注文できないのがとても残念だ。もし、７〜８人のグループで宴会ということになったら、予約したい一品である。
横濱中華街の一角にいまにも壊れそうなちいさな中国料理店『萬福』がある。出てくる料理も日常的なものばかりで、贅沢で高価な材料をつかった料理などは一品もない。だが、この店で出す料理は、すべて一級品ばかりだ。
この『萬福』のメニューに”手羽煮”がある。文字どおり、鷄の手羽を醤油味で煮込んだもの。とりたてて珍しくもない材料と味付けのこの一品がひとを虜にする。普通、手羽は揚げられたものをよくみかけるが、ここのは煮込んである。このために味がくどくなく飽きずに食べることができるのだろう。絶品！
紹興酒の風味を付けて蒸した鷄である。写真は《天龍菜館》のもの。この時は作りたてができてた。そのあまりの美味さに絶句したほど。もちろん，鷄は地鷄（龍崗鷄）を使ってもらった。
もし，この料理を注文するのなら，必ず地鷄を使ってもらうようにリクエストしよう。また，ケチらずに最高級品を使ってもらうべきだ。そして，ここが肝要なのだが，出来立てをテーブルにださせること。折角高価な材料を使っても，冷えたものでは味も半減だ。
酒の香り，肉の旨み。陶酔する脳と活性化する胃袋。前菜に相応しい一品である。
![栗子[火文]龍崗鷄](./chgifs0/tnru121403.jpg)
横濱中華街最強の廣東料理店・天龍菜館は，煮込み料理が得意である。特に鷄はなかなかのものだ。もし，ここで予約して宴会をひらくのなら鷄料理を注文しよう。そして，地鶏を指定することだ。普段は，ブロイラーを使う料理を地鶏にするだけで何倍も美味くなって登場だ。
写真は，栗と龍崗鷄という地鶏の煮込み。栗がいい具合に溶け出していて，なんとも言えず美味いのだ。また，鷄からも旨みがとけだしてたまりませんぜ。鷄自体に濃厚な旨みがあり，また肉質が締まっていてこたええられないものとなった。
天龍菜館では，季節ごとにいろんな鷄の煮込みを作っている。予約の際は，是非問い合わせて欲しい。
市場通りの元町側に２００１年冬にオープンした小さな上海料理店《萬来亭》の八寶鷄。写真は、オープン直後に開いた宴会ででてきたもの。宴会向きの大皿料理だ。
鷄のなかに、もち米、銀杏、貝柱などが詰め込まれ、こんがりと燒いてある。香りがすぐれてよく、中身にもしっかりと味がついていて、とてもうまい。また、鷄の皮の燒き加減が抜群で、ほどよいクリスピー感にうっとりとする。こんなに美味い鷄料理は久しぶりだ。
香港の杭州料理店・華亭會所という店の醤鴨（家鴨の醤油煮）が大変に美味しかったので、上海料理店の萬来亭で再現してもらった。ご覧の通りの宴会向けの大物料理だが、その旨さと言うのは大変なものだ。ご飯によくあう味付けで、感激した。
